昔々から、津軽の冬の食卓に欠かせないのは「けの汁」で、
旧の正月の頃によく作られる。
野菜不足の時期に、保存しておいたものや、有り合わせのものを細かく刻み、
具だくさんで味のよい味噌汁に仕立てる。

「けの汁」を作るには、
とにかく刻んで刻んでの繰り返し。
大根、人参、ゴボウ、蕗、竹の子を刻む。

材料は他に油揚、ワラビ、コンニャク
黒豆、ダシ昆布など。

各家庭で入れる具材も
刻む形も大きさも異なりますが、
小さな賽の目に作る家が多いようです。


大根は秋に貰ったものを新聞紙にくるみ、倉庫で保存していたもの。
「けの汁」の具材の3割くらいは大根と言ってもいいくらい。
人参とゴボウは市販品。
蕗と竹の子は春に頂いた瓶詰めと缶詰で、それぞれ山の幸。
山菜取りが趣味の知人はありがたい♪




黒豆は、ほぼ毎日飲んでいる豆汁を取ったあとの二次利用。
油揚は売れ残りのものを冷凍保存していたもの。
その時、家にあるもので作るような感じで、無ければ無いなりでよしとする。



全部の具材を鍋に入れ、水を加えて煮る。鍋の直径は30p。
煮立つとアクがでるのですくい取る。
それも止めれば、ぐっと昔の味に近づくのかもしれないが、
アクを見るとムズムズと、すくいたい気持ちが湧いて来る♪

昔はもっと大きな鍋に煮て、近所や親戚に配ったり、何日もかけて食べたらしい。
この30pの鍋にいっぱい作ると、昔と比べれば少ないといってもかなりの量になる。
寒い冬であれば、このまま火の気の無い部屋に置き、少しずつ食べる分を取り出していくが、
今年の暖冬では直ぐに味が落ちることは間違いない。
ビニールの袋に小分けして冷蔵保存する事にした。これが「けの汁」の元になる。






小鍋に移して「けの汁」を仕上げる

各家庭で作り方は異なる。
これは私の作り方で、鍋の底にダシ昆布と削り節を置き、
その上に「けの汁」の元になる煮込んだ具材を入れる。
適当な量の水を加え、火にかける。



煮立った頃に、カリッと焼いたダシ昆布を砕いたものと、
味付けの味噌をとき、仕上げる。


器に装った状態。
普通には、お椀にたっぷりと入れて食べる。






この「けの汁」、正直にいうと、子供の頃は大嫌いだった。
何でもかんでも雑多に入っている濁った汁が、どこか田舎臭く思えて、
「身体に良いのだから食べなさい」と、言われても箸をつけなかった。
それが今では、いそいそと自分で材料を刻み、
嬉々としてアクをすくっている。

初めて「けの汁」を作ったのはいつの事だったろう。
嫁にきて、最初のうちは親戚や近所から貰う「けの汁」を食べていた。
昔ほど嫌な気持ちもせず、細かく刻んだ野菜の種類の多さに感心したりもしていた。

自分で作った時、もっと美味しくできるのではと思い、丁寧にこしらえた。
刻んだ野菜を水に通してアクを抜く。
ゴボウは皮を剥き、刻んだものを水に浸ける。
形は短冊形でも今よりもっと小さく、半分の大きさくらい。
そうして手間隙かけてできあがったものは、意外とあっさりした、物足りない味になっていた。

「田舎には田舎の作り方がある」そんな言葉が脇から聞こえてきて
昔の事を思い出してみる。

大きな鍋の上に、直接まな板を置き、刻んだ野菜をその都度放り込んでいた。
鍋の底に、どんどん刻んだ野菜が溜まって山になり、
その山を菜切り包丁でさっと崩して、また刻んだ野菜を入れてゆく。
井戸水をザーッと入れて一まわしかき混ぜ、
薪ストーブのわっかを鍋の大きさに合わせて外し、鍋をかける。

そうだ、その違いかもしれない。
それから必要以上に野菜に水を通す事や、ゴボウの皮むきを止めた。
刻んだ野菜をまとめて鍋に入れ、火にかける。
アクだけは小まめにすくい取り、あとは野菜の持ち味を生かすようにした。

いまではこうして作る「けの汁」が大好きである。





ページのトップへ      前に戻る         ホームへ